2016-09-02 : 23:50 : admin
こんにちは、Wadaです。
大都市の魅惑に幼少から憑かれた私にとってクアラルンプールは「異国風」を想起させるに相応しい響きをもつためか、いつか訪れることを切に望む数少ない都市のひとつです。多様な人種と宗教が混在し、新旧の建物が入り混じるこの首都には、大都市固有の猥雑さが良く現れているとしばしば言われます。急速な都市化は固有の文化を生む反面、しかし大きな困難をももたらすようです。マレーシアの作家 Tash Aw 氏による寄稿記事は、同国が被る交通渋滞の現状を伝えていました(インターナショナル・ニューヨークタイムズ紙・8月25日付)。
クアラルンプールを囲む小都市の一群はクラング・バリーという名で知られ、人口密集地帯となって首都との間に一大交通網を形成しています。他の交通機関が不十分なせいもあり、この道路網で生じる渋滞がことのほか深刻なのです。友人同士の会話は渋滞の話題で始まるのが通例で、15分で着くはずの場所に1時間かかることはざら。パーティーの開始が1時間遅れることも珍しくないそうです。
この「悪夢」は、住民の車好きが主な原因であるとTash Aw 氏は指摘します。消費者の動向を調査するニールセン社によれば、マレーシアでの自動車保有率は世界一高く、車を1台以上所持する家庭は何と93%。調査の回答者10人中7人が2年以内の買い替えを望んでおり、ほぼ3分の2が車を自己のステータスのシンボルと考えているといいます。クアラルンプールだけでも1日約1000台の車が新たに登録されているようです。
鉄道などの整備の遅れも渋滞の一因とされています。クラング・バリーには Light Rail Transit とモノレールという鉄道がありますが、路線はそれぞれ2本だけ。Rapid KL というバス会社は160本の路線を有するものの、慢性的な運転手不足からダイヤは乱れ、クラング・バリーの人口700万人のうち一日の利用者は28万人ほどです。
交通渋滞がもたらす経済的損失も少なくないようで、2015年の世界銀行の報告書によれば、クアラルンプールの住民は車のアイドリングに年間500万時間、12億リットルの燃料を費やすそうで、これはGDPの2%に相当するというのです。
年々悪化する渋滞対策のため、行政当局は2010年、首都を旋回する鉄道の建設を打ち出しました。またロンドンやシンガポールに倣い、都市中心部に向かう車への課金が来年から施行されます。世界で最もビジネスに適した都市を目指すには新たな鉄道建設の成功が必須であり、交通渋滞を打開できるか否かによって「息詰まるような都市の拡大(ジャカルタ)か、それとも超効率的に持続する大都市(シンガポール)か」いずれかの未来へと導くようです。
来年は日マレーシア国交樹立60周年にあたるそうですが、日本のインフラ技術も何らかの貢献ができるのでしょうか。期待したいところです。
大都市の魅惑に幼少から憑かれた私にとってクアラルンプールは「異国風」を想起させるに相応しい響きをもつためか、いつか訪れることを切に望む数少ない都市のひとつです。多様な人種と宗教が混在し、新旧の建物が入り混じるこの首都には、大都市固有の猥雑さが良く現れているとしばしば言われます。急速な都市化は固有の文化を生む反面、しかし大きな困難をももたらすようです。マレーシアの作家 Tash Aw 氏による寄稿記事は、同国が被る交通渋滞の現状を伝えていました(インターナショナル・ニューヨークタイムズ紙・8月25日付)。
クアラルンプールを囲む小都市の一群はクラング・バリーという名で知られ、人口密集地帯となって首都との間に一大交通網を形成しています。他の交通機関が不十分なせいもあり、この道路網で生じる渋滞がことのほか深刻なのです。友人同士の会話は渋滞の話題で始まるのが通例で、15分で着くはずの場所に1時間かかることはざら。パーティーの開始が1時間遅れることも珍しくないそうです。
この「悪夢」は、住民の車好きが主な原因であるとTash Aw 氏は指摘します。消費者の動向を調査するニールセン社によれば、マレーシアでの自動車保有率は世界一高く、車を1台以上所持する家庭は何と93%。調査の回答者10人中7人が2年以内の買い替えを望んでおり、ほぼ3分の2が車を自己のステータスのシンボルと考えているといいます。クアラルンプールだけでも1日約1000台の車が新たに登録されているようです。
鉄道などの整備の遅れも渋滞の一因とされています。クラング・バリーには Light Rail Transit とモノレールという鉄道がありますが、路線はそれぞれ2本だけ。Rapid KL というバス会社は160本の路線を有するものの、慢性的な運転手不足からダイヤは乱れ、クラング・バリーの人口700万人のうち一日の利用者は28万人ほどです。
交通渋滞がもたらす経済的損失も少なくないようで、2015年の世界銀行の報告書によれば、クアラルンプールの住民は車のアイドリングに年間500万時間、12億リットルの燃料を費やすそうで、これはGDPの2%に相当するというのです。
年々悪化する渋滞対策のため、行政当局は2010年、首都を旋回する鉄道の建設を打ち出しました。またロンドンやシンガポールに倣い、都市中心部に向かう車への課金が来年から施行されます。世界で最もビジネスに適した都市を目指すには新たな鉄道建設の成功が必須であり、交通渋滞を打開できるか否かによって「息詰まるような都市の拡大(ジャカルタ)か、それとも超効率的に持続する大都市(シンガポール)か」いずれかの未来へと導くようです。
来年は日マレーシア国交樹立60周年にあたるそうですが、日本のインフラ技術も何らかの貢献ができるのでしょうか。期待したいところです。
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2016-07-15 : 23:44 : admin
こんにちは、Wadaです。
米国では銃による犯罪が跡を絶たないようです。銃による死者数は年間3万人を超え、他の先進諸国に比べ突出しています。しかしよく指摘されるように、銃犯罪の多さは銃規制の強化につながっていないのです。ハーバード・ビジネススクールの調査によると、共和党が過半数を占める州では銃による殺人が起こると、銃規制を(強めるのではなく)緩和する処置が75%増加するといいます。しかし最近では、緩い銃規制が銃犯罪を増やすとの調査結果が増えているのです(The Economist、6月18日付)。
銃の所持は銃犯罪を抑止するのか、それとも促進するのかとの問いは、銃犯罪に関するデータが二義的に評価されるために研究者を悩ませてきました。銃所持の賛成派は、所持率の高い田舎では銃犯罪の割合が低いと言い、またここ20年で米国における銃の総数が急速に増加した一方、銃の犯罪率は下がっていると指摘します。しかし他方で、銃の総数は増加しても、銃を所持する世帯数は下がっているのです。シカゴ大学のMark Duggan氏による2000年の調査によれば、銃による殺人の割合が、銃を所持する世帯数の低下と共に減少したといいます。しかも殺人の割合の減少は世帯数減少に少し遅れて生じたようで、そうするとそれは銃所持の世帯数減少が銃犯罪減少の原因であったことを示唆しており、銃犯罪の減少は犯罪率全体の低下の副産物ではないということになります。
さらに2014年の研究は、武器の携帯を許容する法律が、小火器による犯罪発生率を増やすことを示唆しました。そして130もの研究が、厳格な銃所持規制の法律は小火器による死者数を減少させていると結論づけています。
銃の所持と銃犯罪との関連が証明されてこなかったひとつの理由として、銃所持に賛成するロビイストが研究への公的資金を減らそうと働きかけていたことが挙げられます。しかし主な理由は、研究者が他の条件を一定にしつつ、銃規制と銃犯罪率との関係を取り出すのが難しいためです。例えば多くの先進諸国ではここ数十年で犯罪発生率自体が下がっており、犯罪率減少が銃規制によるものなのかどうかの分析が難しくなっているのです。
もっとも、因果関係を示す例も存在します。豪州で半自動装填式銃により32人が死亡した1996年の事件の直後、豪州政府は半自動装填式銃とポンプ速射式銃の所持を禁止し、すでに出回っている銃を所有者から買い上げました。その結果、規制前までは小火器による死亡率が米国の4分の1であったのに対し、規制後には10分の1にまで減少したのです。
米国での世論調査は、銃所持規制の厳格化への支持が広がっていることを示しており、ほぼ半数の共和党員が「攻撃型」の銃への規制に賛成しているといいます。しかし、熱心な少数派が立法を妨害できる政治制度によって、規制派の意志が挫かれてしまうのです。改革が進まないという政治問題を解決しない限り、銃規制への取組みは難しいようです。
米国では銃による犯罪が跡を絶たないようです。銃による死者数は年間3万人を超え、他の先進諸国に比べ突出しています。しかしよく指摘されるように、銃犯罪の多さは銃規制の強化につながっていないのです。ハーバード・ビジネススクールの調査によると、共和党が過半数を占める州では銃による殺人が起こると、銃規制を(強めるのではなく)緩和する処置が75%増加するといいます。しかし最近では、緩い銃規制が銃犯罪を増やすとの調査結果が増えているのです(The Economist、6月18日付)。
銃の所持は銃犯罪を抑止するのか、それとも促進するのかとの問いは、銃犯罪に関するデータが二義的に評価されるために研究者を悩ませてきました。銃所持の賛成派は、所持率の高い田舎では銃犯罪の割合が低いと言い、またここ20年で米国における銃の総数が急速に増加した一方、銃の犯罪率は下がっていると指摘します。しかし他方で、銃の総数は増加しても、銃を所持する世帯数は下がっているのです。シカゴ大学のMark Duggan氏による2000年の調査によれば、銃による殺人の割合が、銃を所持する世帯数の低下と共に減少したといいます。しかも殺人の割合の減少は世帯数減少に少し遅れて生じたようで、そうするとそれは銃所持の世帯数減少が銃犯罪減少の原因であったことを示唆しており、銃犯罪の減少は犯罪率全体の低下の副産物ではないということになります。
さらに2014年の研究は、武器の携帯を許容する法律が、小火器による犯罪発生率を増やすことを示唆しました。そして130もの研究が、厳格な銃所持規制の法律は小火器による死者数を減少させていると結論づけています。
銃の所持と銃犯罪との関連が証明されてこなかったひとつの理由として、銃所持に賛成するロビイストが研究への公的資金を減らそうと働きかけていたことが挙げられます。しかし主な理由は、研究者が他の条件を一定にしつつ、銃規制と銃犯罪率との関係を取り出すのが難しいためです。例えば多くの先進諸国ではここ数十年で犯罪発生率自体が下がっており、犯罪率減少が銃規制によるものなのかどうかの分析が難しくなっているのです。
もっとも、因果関係を示す例も存在します。豪州で半自動装填式銃により32人が死亡した1996年の事件の直後、豪州政府は半自動装填式銃とポンプ速射式銃の所持を禁止し、すでに出回っている銃を所有者から買い上げました。その結果、規制前までは小火器による死亡率が米国の4分の1であったのに対し、規制後には10分の1にまで減少したのです。
米国での世論調査は、銃所持規制の厳格化への支持が広がっていることを示しており、ほぼ半数の共和党員が「攻撃型」の銃への規制に賛成しているといいます。しかし、熱心な少数派が立法を妨害できる政治制度によって、規制派の意志が挫かれてしまうのです。改革が進まないという政治問題を解決しない限り、銃規制への取組みは難しいようです。
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2016-05-20 : 23:57 : admin
こんにちは、Wadaです
日本で報じられることは少ないですが、1965・66年にインドネシアで生じた共産主義者への粛清は、20世紀最悪の大量虐殺のひとつに数えられています。近頃ようやくこの出来事へと向き合う動きがインドネシアで起こるようになりました。ジョコ・ウィドド大統領によるこの種の意向は評価に値するとされますが、米紙インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ社説("Truth and Reconciliation in Indonesia", 4月22日付)は、さらに罪を裁いて国民との和解を目指す必要があり、そのためには米国の協力が不可欠であると論じました。
この粛清で何と50万人以上が死に、170万人以上が拷問を受けるか収容所へと連行されました。スハルト大統領にとって脅威と見なされた人々が格好の標的とされ、そこには知識人や中国系インドネシア人も含まれていました。インドネシアの人権国家委員会は2012年、この粛清に対する犯罪捜査を要請しましたが実行には至らなかったといいます。
出来事の十全な解明のためには米国側の記録も必要だと社説は述べます。米国はコミュニストへの賛同者と思しき人物の特定と、スハルト政権の武装化に一役買っていたからです。またコミュニストとして訴追された人々とその子孫は、自分達を敵視したかつての大統領令のもとで今も差別に直面しているといいます。ウィドド氏はこの大統領令を早急に破棄すべしと社説は訴えます。
真相の解明が期待されます。
日本で報じられることは少ないですが、1965・66年にインドネシアで生じた共産主義者への粛清は、20世紀最悪の大量虐殺のひとつに数えられています。近頃ようやくこの出来事へと向き合う動きがインドネシアで起こるようになりました。ジョコ・ウィドド大統領によるこの種の意向は評価に値するとされますが、米紙インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ社説("Truth and Reconciliation in Indonesia", 4月22日付)は、さらに罪を裁いて国民との和解を目指す必要があり、そのためには米国の協力が不可欠であると論じました。
この粛清で何と50万人以上が死に、170万人以上が拷問を受けるか収容所へと連行されました。スハルト大統領にとって脅威と見なされた人々が格好の標的とされ、そこには知識人や中国系インドネシア人も含まれていました。インドネシアの人権国家委員会は2012年、この粛清に対する犯罪捜査を要請しましたが実行には至らなかったといいます。
出来事の十全な解明のためには米国側の記録も必要だと社説は述べます。米国はコミュニストへの賛同者と思しき人物の特定と、スハルト政権の武装化に一役買っていたからです。またコミュニストとして訴追された人々とその子孫は、自分達を敵視したかつての大統領令のもとで今も差別に直面しているといいます。ウィドド氏はこの大統領令を早急に破棄すべしと社説は訴えます。
真相の解明が期待されます。
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2016-05-13 : 23:59 : admin
こんにちは、Wadaです。
1980年、ローマのエンジニアでありピアニストでもあるPaolo Fazioli氏は、世界最高級のピアノを作る製造会社を設立しました。高級ピアノ市場は長いあいだ米国のスタインウェイ・ブランドで占められていたため、Fazioli氏の決断は馬鹿げてるとみなされました。それまでピアノ業界への新規参入で成功したのは日本のヤマハのような安価なピアノのメーカーだけだったので、スタインウェイより高級なピアノを作れるとは誰も想像しなかったのです。しかし現在では多くのピアニストが、その2200万円もの超高級ピアノでの演奏を望むようになりました("Piano nobile", The Economist, 5月7日付)。
Fazioli氏は「音楽の森」といわれるヴァル・ディ・フィエンメ近くに工房を建てました。響きの良い音を生むトウヒの木が茂り、ここから採られる木によって、ストラディバリによる最高級のヴァイオリンも作られました。Fazioli氏はエンジニアとしての技能を生かし、他のどれよりも優れた音を生むグランドピアノの製作をここで始めたのです。今では彼の工房は、フル稼働で年に160台から170台のピアノを製造しますが(スタインウェイは2000台から2500台)、オーダーメイドのためピアノが届くまで4ヶ月から8ヶ月も待たなければならないといいます。
ニューヨークのジュリアード音楽院はスタインウェイ社製のピアノの保有台数が世界一なのですが、そこでピアノ技術を担当するStephen Carver氏によれば、スタインウェイはFazioliに比べて「質がさまざまで、わずかに演奏が難しい」と言います。
稀少な楽器のメーカーにとって重要なのは、買い手の数やその予算ではなく、誰が買い手になるかだとFazioli氏は言います。「プロのピアニストによる関心が我が社の躍進を示す」のです。ピアニストのAlessio Baxはスタインウェイを好みますが、「著名なピアニストでFazioliを拒む人はいない」と言い、バッハの演奏で知られるAngela Hewittは、できる限りFazioliのピアノで演奏すると言います。「他のピアノの音色は美しいけど面白みに欠ける。Fazioliほど音の変化がないから」だそうです。
Fazioli氏は最近、品質を認めてもらうための新たな方策を考えたようで、特別に開発されたソフトウェアを用いて、グレン・グールドなど今は亡きピアニストがFazoliniのピアノで弾いた場合の演奏を再現しているのです。
本当に音が違うのか、ぜひ聴いてみたい気がします。
1980年、ローマのエンジニアでありピアニストでもあるPaolo Fazioli氏は、世界最高級のピアノを作る製造会社を設立しました。高級ピアノ市場は長いあいだ米国のスタインウェイ・ブランドで占められていたため、Fazioli氏の決断は馬鹿げてるとみなされました。それまでピアノ業界への新規参入で成功したのは日本のヤマハのような安価なピアノのメーカーだけだったので、スタインウェイより高級なピアノを作れるとは誰も想像しなかったのです。しかし現在では多くのピアニストが、その2200万円もの超高級ピアノでの演奏を望むようになりました("Piano nobile", The Economist, 5月7日付)。
Fazioli氏は「音楽の森」といわれるヴァル・ディ・フィエンメ近くに工房を建てました。響きの良い音を生むトウヒの木が茂り、ここから採られる木によって、ストラディバリによる最高級のヴァイオリンも作られました。Fazioli氏はエンジニアとしての技能を生かし、他のどれよりも優れた音を生むグランドピアノの製作をここで始めたのです。今では彼の工房は、フル稼働で年に160台から170台のピアノを製造しますが(スタインウェイは2000台から2500台)、オーダーメイドのためピアノが届くまで4ヶ月から8ヶ月も待たなければならないといいます。
ニューヨークのジュリアード音楽院はスタインウェイ社製のピアノの保有台数が世界一なのですが、そこでピアノ技術を担当するStephen Carver氏によれば、スタインウェイはFazioliに比べて「質がさまざまで、わずかに演奏が難しい」と言います。
稀少な楽器のメーカーにとって重要なのは、買い手の数やその予算ではなく、誰が買い手になるかだとFazioli氏は言います。「プロのピアニストによる関心が我が社の躍進を示す」のです。ピアニストのAlessio Baxはスタインウェイを好みますが、「著名なピアニストでFazioliを拒む人はいない」と言い、バッハの演奏で知られるAngela Hewittは、できる限りFazioliのピアノで演奏すると言います。「他のピアノの音色は美しいけど面白みに欠ける。Fazioliほど音の変化がないから」だそうです。
Fazioli氏は最近、品質を認めてもらうための新たな方策を考えたようで、特別に開発されたソフトウェアを用いて、グレン・グールドなど今は亡きピアニストがFazoliniのピアノで弾いた場合の演奏を再現しているのです。
本当に音が違うのか、ぜひ聴いてみたい気がします。
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2016-05-06 : 23:59 : admin
こんにちは、Wadaです
テロへの恐怖が移民排斥運動を推し進めるとの問題は、実は100年以上も前から生じていたようです。1894年2月、あるアナーキスト結社に関わるフランス人 Martial Bourdin が、経度・時刻を司るグリニッジ天文台へのテロを起こしました。このテロは、グローバル・テロリズムの先駆けとされる1890年代のアナーキズムを象徴するものでした。Maya Jasanoff ハーバード大教授(歴史学)はそのうえ、現代の市民的自由と移民の問題も、まさにこの時期が端緒であると指摘します("The first global terrorists", インターナショナル・ニューヨークタイムズ紙、4月30日付)。
アナーキズムが全盛であった当時、アナーキスト達は国家なき自由な社会を実現するため「行為によるプロパガンダ」戦略、要するにテロリズムを採用したのです。クロポトキンは一度のテロ攻撃で「数千のパンフレットをまく以上の」効果があると述べ、米国、フランス、スペイン、イタリア、オーストリア=ハンガリー帝国の大統領級の人物が10年内に暗殺される事態になりました。さらにダイナマイトの進化で大量破壊が可能となり、パリのカフェなど「ブルジョワの社交場」もテロの標的とされたのです。
欧州や米国はこれに対抗してアナーキストの入国を制限するなど警察力を強めたのですが、市民的自由の伝統を掲げ亡命避難所を自負する英国では取締りが比較的緩く、アナーキスト達が集まりました。また多くのユダヤ人が主に東欧から流入していました。そうした中、ロンドンが「外国の都市」へと変わってしまうとの懸念から、反移民運動が激化したのです。外国人によるグリニッジでのテロの影響から、警察はアナーキストの拠点と目される場所などを懸命に捜索しました。しかし実際にはアナーキストの拠点がロンドンにあるとの証拠も、アナーキストとユダヤ人難民との関連を示す証拠も存在しなかったのです。最も大きなテロの脅威は欧州からの難民ではなくアイルランド系ナショナリストに存していた、つまり英国の国内問題がテロを誘発したのでした。
グリニッジのテロはアナーキストによる事件としては英国史上唯一のものだったのですが、アナーキズム自体は後に大きな影響をもたらしました。欧州や米国での移民制限を促進したほか国家間の警察統合を進め、後のインターポール(国際刑事警察機構)の元となる組織を形成させたのです。英国でも1905年、移民の入国制限に関する法案が同国史上初めて成立しましたが、制限の範囲を巡って保守派とリベラルとの間で激しい議論がなされました。それは無差別テロに応じた「今日の議論とまさに同種のもの」だったと Jasanoff 教授は述べています。
テロが今日的な問題ではないことがわかるとどこか安心したような気になりますが、過去から学ぶべきことはないのか、やはり検討する努力が必要です。
テロへの恐怖が移民排斥運動を推し進めるとの問題は、実は100年以上も前から生じていたようです。1894年2月、あるアナーキスト結社に関わるフランス人 Martial Bourdin が、経度・時刻を司るグリニッジ天文台へのテロを起こしました。このテロは、グローバル・テロリズムの先駆けとされる1890年代のアナーキズムを象徴するものでした。Maya Jasanoff ハーバード大教授(歴史学)はそのうえ、現代の市民的自由と移民の問題も、まさにこの時期が端緒であると指摘します("The first global terrorists", インターナショナル・ニューヨークタイムズ紙、4月30日付)。
アナーキズムが全盛であった当時、アナーキスト達は国家なき自由な社会を実現するため「行為によるプロパガンダ」戦略、要するにテロリズムを採用したのです。クロポトキンは一度のテロ攻撃で「数千のパンフレットをまく以上の」効果があると述べ、米国、フランス、スペイン、イタリア、オーストリア=ハンガリー帝国の大統領級の人物が10年内に暗殺される事態になりました。さらにダイナマイトの進化で大量破壊が可能となり、パリのカフェなど「ブルジョワの社交場」もテロの標的とされたのです。
欧州や米国はこれに対抗してアナーキストの入国を制限するなど警察力を強めたのですが、市民的自由の伝統を掲げ亡命避難所を自負する英国では取締りが比較的緩く、アナーキスト達が集まりました。また多くのユダヤ人が主に東欧から流入していました。そうした中、ロンドンが「外国の都市」へと変わってしまうとの懸念から、反移民運動が激化したのです。外国人によるグリニッジでのテロの影響から、警察はアナーキストの拠点と目される場所などを懸命に捜索しました。しかし実際にはアナーキストの拠点がロンドンにあるとの証拠も、アナーキストとユダヤ人難民との関連を示す証拠も存在しなかったのです。最も大きなテロの脅威は欧州からの難民ではなくアイルランド系ナショナリストに存していた、つまり英国の国内問題がテロを誘発したのでした。
グリニッジのテロはアナーキストによる事件としては英国史上唯一のものだったのですが、アナーキズム自体は後に大きな影響をもたらしました。欧州や米国での移民制限を促進したほか国家間の警察統合を進め、後のインターポール(国際刑事警察機構)の元となる組織を形成させたのです。英国でも1905年、移民の入国制限に関する法案が同国史上初めて成立しましたが、制限の範囲を巡って保守派とリベラルとの間で激しい議論がなされました。それは無差別テロに応じた「今日の議論とまさに同種のもの」だったと Jasanoff 教授は述べています。
テロが今日的な問題ではないことがわかるとどこか安心したような気になりますが、過去から学ぶべきことはないのか、やはり検討する努力が必要です。
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2016-04-29 : 23:52 : admin
こんにちは Wadaです。
EUにとって英国は、そもそも「やっかいな(recalcitrant)」存在であったようです。EECの発足後20年を経た1973年に加盟するも、EUのメンバー国(フランス)から唯一拒否権を(しかも二度)行使された国。大陸以上に自由貿易や米国との協調を重んじ、早くも1975年にはEU離脱の国民投票を行い、今も以前もEU離脱を唯一試みた国であり、そのためEUを代表するとはとても言い難い。その英国の公用語である英語がEUの諸機関を支配しているという事実は、はなはだ奇妙というほかないのです。英国のエコノミスト誌はこう問いながら、いわゆる「EU英語」について考察を加えていました("English becomes Esperanto" 4月23日付)。
EU28ヶ国で話される24言語は公式には対等ではありますが、英語はフランス語を抑えつつ、次第にEUの官僚や議員の共通言語になって来ました。依然として多くのフランス語話者は、何かの集まりではフランス語への切り替えが許容されることを見込み、実際EU本部が置かれるブリュッセルでは主にフランス語が話されるのですが、非ネイティブにとってはすでに英語が一等の地位を占めているのです。2012年の調査によればEU市民の38%が外国語として英語を話し、ブリュッセルのEU諸機関でも事情は同じだそうです。
EUで外国語の影響を被った英語は「EU英語(Euro-English)」と呼ばれます。例えば"control" はフランス語の影響から"monitor"の意になり、"assist"はフランス語やスペイン語の影響から"attend"の意で用いられます。また不可算名詞"information"も、語尾に"s"をつけて可算名詞として用いられるなど、英語の「単純かつ不正確な拡張」が見られるのです。EU高官のJeremy Gardner氏は「EUの出版物における英語の誤用」なる手引書を出しましたが、裏を返せばそれは、英語ネイティブが何と言おうと、インドや南アフリカと同様EU英語が多くの人に話される英語の一方言になっていることを意味します。
この種の英語では例えば未来完了進行形("I will have been working")のような、面倒だが必ずしも必要とされない表現がなくなるといいます。ある意味でそれは英語の「中性化」・「実用化」であり、EU内での英国の「偏向(polarise)」とは対照的な事態だというのです。
EUでの英語がローカルな方言だとすると何が「普遍的な」英語なのかわからなくなりますが、英語を多少話せるだけの私のような日本人には朗報かもしれません。
EUにとって英国は、そもそも「やっかいな(recalcitrant)」存在であったようです。EECの発足後20年を経た1973年に加盟するも、EUのメンバー国(フランス)から唯一拒否権を(しかも二度)行使された国。大陸以上に自由貿易や米国との協調を重んじ、早くも1975年にはEU離脱の国民投票を行い、今も以前もEU離脱を唯一試みた国であり、そのためEUを代表するとはとても言い難い。その英国の公用語である英語がEUの諸機関を支配しているという事実は、はなはだ奇妙というほかないのです。英国のエコノミスト誌はこう問いながら、いわゆる「EU英語」について考察を加えていました("English becomes Esperanto" 4月23日付)。
EU28ヶ国で話される24言語は公式には対等ではありますが、英語はフランス語を抑えつつ、次第にEUの官僚や議員の共通言語になって来ました。依然として多くのフランス語話者は、何かの集まりではフランス語への切り替えが許容されることを見込み、実際EU本部が置かれるブリュッセルでは主にフランス語が話されるのですが、非ネイティブにとってはすでに英語が一等の地位を占めているのです。2012年の調査によればEU市民の38%が外国語として英語を話し、ブリュッセルのEU諸機関でも事情は同じだそうです。
EUで外国語の影響を被った英語は「EU英語(Euro-English)」と呼ばれます。例えば"control" はフランス語の影響から"monitor"の意になり、"assist"はフランス語やスペイン語の影響から"attend"の意で用いられます。また不可算名詞"information"も、語尾に"s"をつけて可算名詞として用いられるなど、英語の「単純かつ不正確な拡張」が見られるのです。EU高官のJeremy Gardner氏は「EUの出版物における英語の誤用」なる手引書を出しましたが、裏を返せばそれは、英語ネイティブが何と言おうと、インドや南アフリカと同様EU英語が多くの人に話される英語の一方言になっていることを意味します。
この種の英語では例えば未来完了進行形("I will have been working")のような、面倒だが必ずしも必要とされない表現がなくなるといいます。ある意味でそれは英語の「中性化」・「実用化」であり、EU内での英国の「偏向(polarise)」とは対照的な事態だというのです。
EUでの英語がローカルな方言だとすると何が「普遍的な」英語なのかわからなくなりますが、英語を多少話せるだけの私のような日本人には朗報かもしれません。
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2016-04-22 : 23:59 : admin
こんにちは、Wadaです。
ごく平均的な日本人が例えば米国などに行って英語を話すようになると、人格までも変わってしまうように見えることがよくあります。先日の英誌エコノミスト("Of two minds" 4月9日付)は、英語ネイティブが英語で仕事をする際に有利なのはもちろんだが、非ネイティブが英語で仕事をする際にもそこそこ有利な部分があることを示していました。
例えばエコノミスト誌で働くロシア人は、英語を話すことで自己の思考を明確にでき、貴重な気晴らしの時間を得ることができるといいます。また外国語でゆっくりと話すことで、通常は興奮したり感情的になったりする際に損なわれる、適切な言葉を選ぶ能力を維持できるというのです。
しかも外国語で何かを決断する方がよりよい結果をもたらすということが、シカゴ大学の研究者によって実証されました。一見すると正しい選択が悪い結果を生む罠をしかけた実験では、第二言語を話す被験者の方が罠を避けることができる傾向にあるというのです。さらに道徳的に何かを判断する際にも、外国語の話者の方が感情的にならずにより功利的な判断ができることがわかりました。例えばデンマークで働くある米国人は、賃上げ要求をデンマーク語でしていたといいます。英語での交渉は自分を苦しめてしまうというのです。
そういえば英会話の練習を始めたころ、日本語という言葉の軛から逃れられたような、いささか自由な感覚が生じたことを思い出しました。英語学習の効用は意外なところにも見られるようです。
ごく平均的な日本人が例えば米国などに行って英語を話すようになると、人格までも変わってしまうように見えることがよくあります。先日の英誌エコノミスト("Of two minds" 4月9日付)は、英語ネイティブが英語で仕事をする際に有利なのはもちろんだが、非ネイティブが英語で仕事をする際にもそこそこ有利な部分があることを示していました。
例えばエコノミスト誌で働くロシア人は、英語を話すことで自己の思考を明確にでき、貴重な気晴らしの時間を得ることができるといいます。また外国語でゆっくりと話すことで、通常は興奮したり感情的になったりする際に損なわれる、適切な言葉を選ぶ能力を維持できるというのです。
しかも外国語で何かを決断する方がよりよい結果をもたらすということが、シカゴ大学の研究者によって実証されました。一見すると正しい選択が悪い結果を生む罠をしかけた実験では、第二言語を話す被験者の方が罠を避けることができる傾向にあるというのです。さらに道徳的に何かを判断する際にも、外国語の話者の方が感情的にならずにより功利的な判断ができることがわかりました。例えばデンマークで働くある米国人は、賃上げ要求をデンマーク語でしていたといいます。英語での交渉は自分を苦しめてしまうというのです。
そういえば英会話の練習を始めたころ、日本語という言葉の軛から逃れられたような、いささか自由な感覚が生じたことを思い出しました。英語学習の効用は意外なところにも見られるようです。
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2016-04-21 : 23:59 : admin
こんにちは 、Wadaです。
米国でも自殺が社会問題化しているようです。米紙インターナショナル・ニューヨークタイムズ("U.S suicide rate at a 30-year high", 4月23・24日付)は特に女性と中年層(45-64歳)の自殺率が増加しているとの調査結果を報じ、団塊世代の「自己破壊的」行動が一因ではないかとの見解を紹介していました。
全米保健統計センターは22日、自殺率全体は1999年から2014年までの間24%増加し、特に中年女性と中年男性はそれぞれ63%、43%ずつ増加したとの調査結果を公表しました。全米の自殺率は1万人につき13人と1986年以来最も高く、2006年から毎年2%づつ増えており、2014年の自殺者総数は4万2773人で1999年の2万9199人に比べて大幅に増加したというのです。
自殺率が低下したグループもあります。人種では黒人男性のみが低下し、年齢層では75歳以上の男女のみが低下したようです。学歴が高卒以下の米国白人は自殺や薬物中毒、アル中などに陥りやすいことが以前から指摘されており、今回の研究結果はかかる傾向に一致するとの見解を同紙は報じます。Robert D. Putnamハーバード大教授(公共政策)によれば「貧困、希望喪失、保健衛生の相関関係を示す証左の全貌が明らかになりつつあり、今回の調査はその一役を担っている」とのことです。
考えられる原因としてはやはり経済状況の悪化が挙げられます。疾患統制予防センターのAlex Crosby博士(疫学)は経済の停滞と自殺率との相関関係を示しました。現代の米国で自殺率の最も高まった時期のひとつが大恐慌の最中の1932年で、その割合は1万人に22.1人だったのですが、これは2014年に比べ70%も高いそうです。
社会的孤立の増加も背景にあるようです。特に低学歴の米国人の間で既婚率が下がり、離婚率が上がっています。Julie Phillips教授(社会学)の計算では、2005年において未婚男性が自殺で亡くなる傾向は既婚男性の3.5倍、未婚女性の場合は2.8倍で、中年以上の離婚率は1990年代から倍増しているといいます。
他方でPhillips教授は、団塊世代の低学歴白人男性が被る社会・経済的期待感の喪失が一定の役割を果たしていると指摘します。彼ら団塊世代は「男らしさと自立独行」を価値とする時代に育ったため、絶望に直面しても他者に助けを求めず、自己破壊的になりやすいというのです。
以前から深刻な自殺の問題を抱える日本は、「ハラキリ」や「カミカゼ」など半ば揶揄を伴いながら諸外国により自死への傾向性が注目されてきましたが、先の指摘が正しいとすれば、あるいは米国にも同種の文化、というか病理が潜んでいるのではという気がしました。
米国でも自殺が社会問題化しているようです。米紙インターナショナル・ニューヨークタイムズ("U.S suicide rate at a 30-year high", 4月23・24日付)は特に女性と中年層(45-64歳)の自殺率が増加しているとの調査結果を報じ、団塊世代の「自己破壊的」行動が一因ではないかとの見解を紹介していました。
全米保健統計センターは22日、自殺率全体は1999年から2014年までの間24%増加し、特に中年女性と中年男性はそれぞれ63%、43%ずつ増加したとの調査結果を公表しました。全米の自殺率は1万人につき13人と1986年以来最も高く、2006年から毎年2%づつ増えており、2014年の自殺者総数は4万2773人で1999年の2万9199人に比べて大幅に増加したというのです。
自殺率が低下したグループもあります。人種では黒人男性のみが低下し、年齢層では75歳以上の男女のみが低下したようです。学歴が高卒以下の米国白人は自殺や薬物中毒、アル中などに陥りやすいことが以前から指摘されており、今回の研究結果はかかる傾向に一致するとの見解を同紙は報じます。Robert D. Putnamハーバード大教授(公共政策)によれば「貧困、希望喪失、保健衛生の相関関係を示す証左の全貌が明らかになりつつあり、今回の調査はその一役を担っている」とのことです。
考えられる原因としてはやはり経済状況の悪化が挙げられます。疾患統制予防センターのAlex Crosby博士(疫学)は経済の停滞と自殺率との相関関係を示しました。現代の米国で自殺率の最も高まった時期のひとつが大恐慌の最中の1932年で、その割合は1万人に22.1人だったのですが、これは2014年に比べ70%も高いそうです。
社会的孤立の増加も背景にあるようです。特に低学歴の米国人の間で既婚率が下がり、離婚率が上がっています。Julie Phillips教授(社会学)の計算では、2005年において未婚男性が自殺で亡くなる傾向は既婚男性の3.5倍、未婚女性の場合は2.8倍で、中年以上の離婚率は1990年代から倍増しているといいます。
他方でPhillips教授は、団塊世代の低学歴白人男性が被る社会・経済的期待感の喪失が一定の役割を果たしていると指摘します。彼ら団塊世代は「男らしさと自立独行」を価値とする時代に育ったため、絶望に直面しても他者に助けを求めず、自己破壊的になりやすいというのです。
以前から深刻な自殺の問題を抱える日本は、「ハラキリ」や「カミカゼ」など半ば揶揄を伴いながら諸外国により自死への傾向性が注目されてきましたが、先の指摘が正しいとすれば、あるいは米国にも同種の文化、というか病理が潜んでいるのではという気がしました。
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2015-06-17 : 23:55 : admin
こんにちは、Wadaです。
毎年、世界総額で1350億ドルもの資金が開発援助に充てられますが、その有効性は被援助国の政治的意志にかかっています。しかし大抵の場合、その意志はうまく作用しているとは言い難いようです。援助国が支援するものは、受け手にとって必ずしも必要ではないということがありえるのです。例えば学校を建てたけれども生徒がいない、医療器具は使われずに錆びついてしまったというように。
そこで昨今では、結果が改善されるごとに援助がなされる「キャッシュ・オン・デリバリー」制が模索されています。例えば子供の致死率を下げるという目標を立て、それが成功すればどの程度の援助金が支払われるかを前もって決めておくのです(The Economist 2015年5月23日)。
従来の方法では、援助する側は、賄賂の横行によるコストの増大や地元の役人への不信から、義援金の使途をあらかじめ厳格に定める傾向がありました。しかしキャッシュ・オン・デリバリーの枠組みでは、被援助者は、人権に配慮しさえすれば自分で定めた目標を達成するために義援金をどのように用いてもよいということになります。成功すれば、被援助国政府はそこで得た義援金を、さらなる改善策へと用いることができるのです。
例えばノルウェイは森林保護と二酸化炭素削減のため、ブラジル政府に対して二酸化炭素の排出を1トン削減するにつき5ドルの義援金を支払うことにしました。ブラジル政府は人工衛星からの森林の映像を用いながらさとうきび畑の拡大の規制を強め、アマゾンの森林の拡大に成功したのです。
従来の方法では義援金の使途は人の計算に頼っていたのですが、キャッシュ・オン・デリバリーの場合には結果だけがその尺度とされるため、国単位での統計を用いることが重要になります。この制度のもとで、被援助国同士の健全な競争を促すことが期待されているのです。
毎年、世界総額で1350億ドルもの資金が開発援助に充てられますが、その有効性は被援助国の政治的意志にかかっています。しかし大抵の場合、その意志はうまく作用しているとは言い難いようです。援助国が支援するものは、受け手にとって必ずしも必要ではないということがありえるのです。例えば学校を建てたけれども生徒がいない、医療器具は使われずに錆びついてしまったというように。
そこで昨今では、結果が改善されるごとに援助がなされる「キャッシュ・オン・デリバリー」制が模索されています。例えば子供の致死率を下げるという目標を立て、それが成功すればどの程度の援助金が支払われるかを前もって決めておくのです(The Economist 2015年5月23日)。
従来の方法では、援助する側は、賄賂の横行によるコストの増大や地元の役人への不信から、義援金の使途をあらかじめ厳格に定める傾向がありました。しかしキャッシュ・オン・デリバリーの枠組みでは、被援助者は、人権に配慮しさえすれば自分で定めた目標を達成するために義援金をどのように用いてもよいということになります。成功すれば、被援助国政府はそこで得た義援金を、さらなる改善策へと用いることができるのです。
例えばノルウェイは森林保護と二酸化炭素削減のため、ブラジル政府に対して二酸化炭素の排出を1トン削減するにつき5ドルの義援金を支払うことにしました。ブラジル政府は人工衛星からの森林の映像を用いながらさとうきび畑の拡大の規制を強め、アマゾンの森林の拡大に成功したのです。
従来の方法では義援金の使途は人の計算に頼っていたのですが、キャッシュ・オン・デリバリーの場合には結果だけがその尺度とされるため、国単位での統計を用いることが重要になります。この制度のもとで、被援助国同士の健全な競争を促すことが期待されているのです。
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2015-06-03 : 23:34 : admin
こんにちは、 Wadaです。
人口の高齢化は低成長を導くと一般には考えられています。労働人口が縮小して富の産出が減り、年金への支出の増大と税収の減少が財政を圧迫するのです。
やがて高齢化社会を迎える世界中の多くの国でこの傾向が見られ、日本はこの問題に直面する最初の国となります。日本の長期に渡るデフレは、高齢化が進み成長が滞る現象にともなって生じたと長い間考えられてきましたが、実は高齢化とデフレとの関係はそれほど単純ではなさそうです(The Economist 2015年5月9日)。
アベノミクスのインフレ政策は物価上昇率2%を目標にしていますが、実現は難しいようで、そうだとすればこの政策をもって、しても高齢化がもたらすとされるデフレには、対処できないということになりそうです。
しかし、近時の研究では必ずしもデフレは高齢化の結果ではないそうなのです。高齢化といっても、それは、出生率の減少と寿命の延長の双方によって生じます。
前者は税収の減少をもたらしインフレにより政府の負債を目減りさせますが、後者はインフレによる貯蓄増大の抑制を促します。日本では、とりわけ寿命の延長によるデフレの効果が大きかったとの報告がなされているのです。つまり出生率の減少はある程度予測ができたのですが、寿命の延長は想定外で、これがデフレを促進したというわけです。
さらに若年層や高齢層のように生産を他者に依存する階層が増大することによって、インフレが促進されるとの研究もあります。消費する階層が生産する階層よりも多ければ、需要が超過し、インフレを押し進めるというのです。
ではなぜ日本は高齢化を迎えているにもかかわらず、長期のデフレに陥っているのでしょうか?
80年代の資産バブルが残したバランスシートの欠損が尾を引いているためか、あるいはアベノミクスの様な金融政策の遅れが原因であると言われています。高齢化によるインフレ効果がいまだ現れていないとすれば、それはデフレを退治する日銀にとっては強力な味方になるのです。
人口の高齢化は低成長を導くと一般には考えられています。労働人口が縮小して富の産出が減り、年金への支出の増大と税収の減少が財政を圧迫するのです。
やがて高齢化社会を迎える世界中の多くの国でこの傾向が見られ、日本はこの問題に直面する最初の国となります。日本の長期に渡るデフレは、高齢化が進み成長が滞る現象にともなって生じたと長い間考えられてきましたが、実は高齢化とデフレとの関係はそれほど単純ではなさそうです(The Economist 2015年5月9日)。
アベノミクスのインフレ政策は物価上昇率2%を目標にしていますが、実現は難しいようで、そうだとすればこの政策をもって、しても高齢化がもたらすとされるデフレには、対処できないということになりそうです。
しかし、近時の研究では必ずしもデフレは高齢化の結果ではないそうなのです。高齢化といっても、それは、出生率の減少と寿命の延長の双方によって生じます。
前者は税収の減少をもたらしインフレにより政府の負債を目減りさせますが、後者はインフレによる貯蓄増大の抑制を促します。日本では、とりわけ寿命の延長によるデフレの効果が大きかったとの報告がなされているのです。つまり出生率の減少はある程度予測ができたのですが、寿命の延長は想定外で、これがデフレを促進したというわけです。
さらに若年層や高齢層のように生産を他者に依存する階層が増大することによって、インフレが促進されるとの研究もあります。消費する階層が生産する階層よりも多ければ、需要が超過し、インフレを押し進めるというのです。
ではなぜ日本は高齢化を迎えているにもかかわらず、長期のデフレに陥っているのでしょうか?
80年代の資産バブルが残したバランスシートの欠損が尾を引いているためか、あるいはアベノミクスの様な金融政策の遅れが原因であると言われています。高齢化によるインフレ効果がいまだ現れていないとすれば、それはデフレを退治する日銀にとっては強力な味方になるのです。
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