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# 大学に経済効果はあるのか?
こんにちは、Wadaです。

大学は現在急速に世界中に広まっているようです。大学進学率は2012年までの20年で14%から32%に増え、大学進学率50%以上の国は5カ国から54カ国に増えました。大学入学者数の増加率は車の需要の増加率を上回るほどなのです。オックスフォード大とドイツの研究所を模倣することから始まった米国の大学が、現在世界中の大学のモデルとなってその拡大に貢献しているのですが、そもそもこの大学という教育制度が経済に果たす役割は不透明のままです(The Economist, 2015年3月28日)。

大学の運営形態には国家が予算をまかない平等に配分するヨーロッパ型と、高額な授業料を課し市場の論理に従って重点的に予算を配分する米国型がありますが、多くの大学は米国型をモデルにする傾向があります。大学は社会の発展に貢献しますが、そのコストも増加しています。OECD諸国の大学消費コストのGDPに対する割合は、2000年には1.3%であったのに、現在では1.6%となっています。米国では2.7%なので、大学の米国化が進めば数値はさらに上がりそうです。研究面ではコストに見合った効果は出ているようで、論文の被引用回数が上位20の大学のうち19が米国の大学なのですが、教育面ではあまり効果が上がらず、卒業生の学力は世界的に比較すると低いことが明らかになっています。授業料もここ20年で2倍になっており、学生全体の負債は1.2兆円で、これはカードの負債や車のローンを上回っているといいます。

大学にかけるコストは必ずしも無駄ではないようで、卒業生は平均約15%の授業料を回収できるそうですが、社会的な経済効果は不透明です。企業は学ぶ内容よりも、入試の選抜過程の難易度から学生の質を見極める傾向があるためです。政府からの資金を得るため教授は研究に労力を傾注しますが、教育に関しては、例えば授業料を上げたり学位を希少にすることで大学の名声を上げることしかできません。卒業の際に統一試験を課す案もOECDによって検討されていますが、専門知をいかに同一の尺度で測るかという問題が生じます。アジア諸国は学生の国際社会への参入を促すために試験の導入に肯定的ですが、先進国は得られるものが少ないのためか導入には否定的です。

日本の大学も授業料の高騰が問題になっていますが、これからさらに高騰が進むのでしょうか。いささか心配です。
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# 女子が男子より賢いのはなぜか(後編)
こんにちは、Wadaです。

前回、読解力において女子が男子の成績を大幅に上回っているとの調査結果を報告しましたが、これは実は大学教育にも当てはまるようです(The Economist 2015年3月7日)。かつて大学では男子学生が多数を占めていたのですが、近年では女子の入学者数の方が上回っているといいます。OECD諸国では、1985年には大学入学者に占める女子の割合は46%であったのに対し、現在では56%、2035年には58%になる見通しです。米国のトップ層の大学では男女比はほぼ同数ですが、不鮮明な入試基準が男子に有利に作用していると噂されているほどなのです。実際、女子の方がきちんと卒業し、成績もよい傾向があります。さすがに数学は男子の方が強いのですが、生命・社会科学、ビジネスや法律では女子の成績が上回ります。

女子の高学歴化の背景には、晩婚化が進んで一生の間に生む子供の数が減った、既婚者の就業が容易になった、性差別も減少し、離婚率が増加して自己への投資の重要性が高まったなどの理由から、大学へ行く動機が強まったことが考えられます。いずれ女性と男性の社会的地位が逆転するであろうとの指摘もなされるほどです。

実際多くの国で、高等教育への投資から回収される利益は男性より女性の方が多いとOECDは指摘しますが、しかし米国では逆で、女性の収入は男性のそれの4分の3ほどです。女子の方が成績がよいにしてもその専攻分野が人文科学やソーシャルワークであれば、コンピューターや機械工学を専攻する男子に比して将来の収入は劣ってしまいます。もっとも女性が高等教育を志向する主たる理由は、将来得られる収入の額とは関係がないと示唆する研究もあります。

学校では女子の方が「賢い」にしても、社会的に重要な地位に女性がとどまるかどうかは別の問題のようです。医療・法律分野に男女同数が職を得ても、10-15年後には女性は一線を退くか子をもうけるなどして職場を離れるのに対し、男性は学校で培った資質に頼るよりも、その後に志を持続させるか、経験を積んで人間性を広げるなどして出世する場合が多いといいます。ハーバード大のクラウディア・ゴールディン博士の調査によれば、外科医、弁護士や銀行員など、報酬の高い職の時間当たりの収入は、最初の10-15年で男女差が拡大するといいます。これらは長期間の就業を必要とし、出産などで職場を離れることが難しくなるためです。そのため女性が社会的地位を得る機会と報酬の平等を達成するには、「大きな構造的変化」が必要になるというのです。

女性が役員の多数派を占める日は来るのか、やはり期待したいところです。

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# 女子が男子より賢いのはなぜか(前編)
こんにちは、Wadaです。

つい最近たまたま本屋で手にとった新卒向けの就職活動の対策本に、採用試験を本当に男女平等にしたら女子ばかりが採用されることになるとの採用担当者の嘆きが紹介されていて驚いたことがあります。実際、ここのところ10代の男子は女子よりも学校の勉強で遅れをとっているとの報告が、複数の学校関係者からなされているようなのです。1960年代には男子は女子よりも長く学校にとどまり、大学にも進学する傾向があったのですが、近年は先進国か否かを問わず両者の関係が逆転しているといいます。かつては女子の理系離れが心配されていたのに、今や男子の読書離れの方が深刻なのです(The Economist 2015年3月7日)。

各先進国政府もこれを案じているようで、スウェーデンは「男子の危機(boy's crisis)」という名の調査委員を設置し、オーストラリアは「男子どもに書も(Boys, Blokes, Books & Bytes)」と題されたプログラムを作りました。さらにOECDはこの3月、かかる懸念を実証する報告書を公表したのです。15才の男子は数学において依然として3ヶ月ほど女子に先んじていますが、理科ではほぼ互角です。しかし読解では、これまで女子が男子にいくらか先んじていた程度だったものの、差が広まっているといいます。64の国や地域のすべてにおいて、女子は男子より平均1学年ほど差をつけているという結果が出たのです。OECDは、読解力を学習の基盤として重視しています。15才の男子で各教科の基礎的な水準に達していない子は女子の1.5倍であるという結果が出ており、こうした基礎学力がない場合、学校から完全にドロップアウトしてしまう傾向があるためです。

このような差が生じる原因として挙げられているのが校外での過ごし方です。男子はテレビゲームやインターネットに興ずるためか、この年齢における家庭での1週間の平均学習時間は女子が5.5時間で男子より1時間長く、女子の4分の3が趣味で読書をするのに対して男子は半分にとどまり、しかも家庭学習を女子と同じ時間こなしている男子でも読解力は4分の1程度劣ってしまうのです。校内の過ごし方を見ても「学校は無駄」と考える男子の割合は女子の2倍で遅刻も多く、OECDは学習を軽視する「男らしさ」の教育を是正するよう促しています。低学歴の労働者への需要が多かった時代や、あるいは大胆さが要求される数学においては「男らしさ」にも合理性があったのですが、今や教師をイラつかせるだけの悪弊なのです。

他に挙げられる理由としては、礼儀正しく熱心で争いを好まないという女性的資質が試験での得点に結びついているから、あるいは小中学校の7-8割の教師は女性で、彼女らが同性の生徒を優遇しているからというものもあります。

男子の「草食化」は社会の要請でもあるということでしょうか。次回に続きを報告します。
続き▽
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# ウィルスをもって菌を制す?
こんにちは、Wadaです。

ウィルスを用いて感染を治療する方法が、最近開発されているそうです。バクテリオファージと呼ばれるこの細菌ウィルスは、哺乳類の細胞を攻撃せずに、細菌の細胞のみを攻撃することができるのです。実はこの方法は1920年代から知られていたのですが、抗生物質の発展に伴い、現在までグルジアやポーランドなど一部の国で細々と研究が続けられていただけでした。ところが抗生物質は、細菌が進化して抵抗力を増すと、その効力を弱めてしまいます。そこで再度、バクテリアファージを現代的な手法で治療に役立てようという研究者が現われたのです(The Economist, 2015年2月28日)。

カリフォルニア州にあるシンセーティック・ゲノミクス研究所のクレイグ・ベンター(Craig Venter)博士は、ヒトゲノムの配列を研究しており、有機体を再設計する過程でバクテリオファージの研究に取り組むに至りました。グルジアやポーランドで開発されているファージは、自然界に存在するファージを化合したものですが、上記の研究所は、既成の化学薬品を用いてゼロからウィルスを合成することで、目的の原子になるよう正確にファージを設計することができます。そのためファージには特許権が与えられるのです。

この研究所では多様なファージを用いて試行錯誤を続けていますが、目下の課題は菌を覆うバイオフィルムを破るファージをいかに作るかというものです。また菌がウィルスへの耐性をつけるのを阻止するようファージを強力なものにする「軍拡競争」を絶えず行う必要があります。さらに人間の免疫システムによって外敵と認識されないよう、ファージを「見えない」ものにしていくことが重要です。現在は動物での臨床を行っていますが、うまくいけば2年以内に人間に用いることができ、将来は抗生物質に代わる役割を果たせるのではないかと期待されています。

早く実用化されることを期待します。
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# 海洋汚染を藻で浄化?
こんにちは、Wadaです。

工場や住宅から流れ込む排水によって海洋が汚染され、そこから藻が大量発生することはよく知られています。藻は汚染水に含まれる養分を吸収して拡大し、毒性を含むこともあるため危険なものとなりえます。しかし藻の拡大をうまくコントロールして、広範に拡大する前に排水の養分を吸収させることができれば、海水汚染の浄化に役立てることができるかもしれません。ミシガン州にあるアルガル・サイエンティフィックという研究所は、このような技術開発に取り組んでいます。藻を使った汚染の除去は彼らが初めてではありませんが、バドワイザーのビール工場近くに浄化施設を建てることによって、これを商業の観点から行ったのです(The Economist, 2015年1月3日)。

藻で浄化する従来の方法は、汚染水の養分を食べる菌を育む光合成に頼っていましたが、それには大量の太陽光を必要とします。そのため広大な池が必要となり、資金・管理面で大きな負担でした。ところが藻の中には光合成を必要とせず、有機物質の豊富な排水から養分を得るだけで成長するものもあるのです。ゲオフ・ホースト研究員は、藻で浄化する方法が従来から知られていたにもかかわらず実用化されなかった理由は、汚染水が逆説的にも十分に汚染されていないからだと考え、このような、汚染水だけで藻を育む方法を編み出しました。ビール工場からの排水を使い、タンクの中だけでより簡便な仕方で藻を育成するのです。

藻を構成する菌にも様々なものがあって、全体でひとつのエコシステムを構成します。養分を吸い尽くすものもあれば、藻と敵対するバクテリアを食べるものもあり、これらの適正なバランスを模索するのに長年を要したようです。しかもホースト博士は、この藻を収穫して乾かし、肥料や家畜の飼料にすることを提唱しています。藻が吸収した汚染水の養分がここで生かされるのです。

早く実用に移されることが期待されます。
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# ダークマターで恐竜絶滅?
こんにちは、Wadaです。

6600万年前に恐竜が絶滅した主な原因は、隕石の衝突と火山の活発な噴火であると考えられてきました。ところが最近になってこれら隕石と火山の原因を一度に説明する仮説が、ニューヨーク大学のミシェル・ランピーノ博士によって提唱されています。宇宙に存在するダークマターがその原因ではないかというのです(The Economist 2015年2月28日)。

我が太陽系は2億5000万年をかけて銀河を一周しますが、その行程は決して平坦なものではありません。銀河を通過する太陽系は物質が密集する円盤を3000万年おきに横切るのですが、その際、横切る軌道が引力によって上下に揺れ動いてしまうのです。ランピーノ博士の観察によれば、これによって太陽系の最もはずれに位置する「オールトの雲」と呼ばれる彗星群の重力が破裂し、その影響で地球に隕石が衝突した可能性があるといいます。この重力の破裂は太陽系とショルツ星と呼ばれる星との間を何らかの星々が通過することによって生じると考えられていたのですが、これは星々ではなく実はダークマターだったのではないかと博士は推測しています。

宇宙に存在するダークマターの分量は原子を構成する物質の5倍だそうですが、原子物質に作用する重力によってのみその位置を知ることができます。ランピーノ博士の観察によれば、原子物質が集中する銀河の円盤はダークマターの重力が作用しやすく、太陽系がそこを横切る際にオールトの雲の破裂が生じやすくなるのです。しかも博士は、ダークマターは地球の中心部に蓄積されることで互いに衝突しやすくなり、その衝突し合うダークマターから大量の熱が放出されて火山活動が活発化したのではないかといいます。

ランピーノ博士を含む何人かの研究者は、実際のところ大規模な絶滅は3000万年おきに生じているといいますが、そうではないと主張する学者もいます。博士の仮説が、どれほど隕石の衝突や火山の噴火の生じる確率を増大させるものであるかは、正確には測りえません。

でもこの仮説によって、曖昧模糊としていたダークマターがより身近に感じられました。
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# 厳しい環境規制は経済にも厳しいか?
こんにちは、Wadaです。

環境規制の経済効果はどの程度かを計るには、その規制の厳しさの度合いを調べる必要がありますが、いまだ誰も行っていません。個々の環境政策が国ごとにどのように違い、それらが時を経てどのように変化しているのかを示す指標は存在しなかったのです。ところが最近OECDは、環境規制の厳しさと、経済の生産性への影響を示す包括的な指標を公開したのです(The Economist 2015年1月3日)。

1990年から2012年までの先進24ヶ国4400万社の情報を元に、環境政策の厳しさの変化がどの程度製造業に影響を与えたかを調べたところ、「厳しさの増大は生産性の増大を妨げない」という結果を得たのです。それは、環境規制は地球にやさしいが経済的なコストがかかるという多くの政府や企業が抱く通念を打ち破るものといえます。原因として考えられる第一のものは、環境規制は生産性の数値を変化させるほど厳しくはない、というものです。原油価格が10%変化してもGDPの変化は0.2%にとどまるという法則が、環境規制にも当てはまるというのです。

第二に、ハーバード大のマイケル・ポーター氏によれば、環境規制は効率性やイノベーションへの投資を促進させるからであるというのです。デンマークのような規制が強い国では生産性の高い企業の生産性を、ギリシャのような規制の緩い国に比べて0.2-0.6%押し上げるのです。もっとも逆に生産性の低い企業では、生産性が0.1-0.3%下がってしまいます。環境規制は企業ごとの格差を広げてしまうという側面があるのです。

第三に、環境規制は、炭素税のように市場原理に沿ったものか、それとも単なる禁止規定かが重要です。例えばオランダでは、規制は厳しいがそれは市場原理に適うもので、逆にイタリアでは規制は緩く市場原理にも適わず、またドイツでは規制は厳しく市場原理にも適わないというように。

単に規制すればよいというものではないようです。
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# 羽ばたきの物理学?
こんにちは、Wadaです。

物理学の学生が好んで論じる問題に以下のようなものがあります。総量400㎏の鳥を運ぶ4800㎏のトラックが、重量制限5000㎏の橋に差し掛かった。運転手は重量を減らすため鳥を一斉にバタつかせ、カゴの中を飛んでいる間に橋を渡ってしまおうと考えた。この運転手の試みは成功するだろうか?ーー。もちろん物理の世界はそれほど甘くはなく、鳥が羽ばたくことで下降流が生じ、床に鳥の体重と同じ程度の圧力がかかるために橋を渡れないというのが正解です。しかしこの解答に満足できないスタンフォード大のレンティンク博士は、鳥の羽ばたきがもたらす複雑な効果の解明を試みました(The Economist 2015年1月17日)。

博士は鳥の動きを参考にして無人機の設計を試みていますが、鳥をつないだり、かさや密度を計量して個々の要素を分析する手法には限界があるのです。そこで博士は素早く変動する鳥の羽ばたきがもたらす圧力を、鳥をつながずに計測する方法を編み出してJournal of the Royal Society Interface誌に公表しました。博士らは床と天井にセンサーを取り付けたカゴを開発し、その中にオウムを飛ばして実験したのです。

通常、鳥は上から下への羽の動きで胴体を持ち上げるとされるのですが、博士らが観測した結果はもっと極端でした。オウムは体重の2倍の力をこの上から下への羽の動きに使っており、逆に下から上への羽の動きにはほとんど力を使っていないというのです。トラックの鳥が一斉に飛び立つとすれば、鳥がもたらす重量は2倍になってしまうという計算になります。

単純なクイズのような問題を詳細に分析することで現実の鳥の動きがわかり、無人機の開発にもつながるのです。
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# 地球温暖化を跳ね返す(その2)
こんにちは、Wadaです。

冷房による外気の高温化が都市部で問題となっていることは誰しも想像がつきます。しかし、冷房が室内の熱を外に放出する原理をそのまま地球全体に拡張できるのではないかという研究が行われているのは、ほとんど知られていません。赤外線をそのまま宇宙空間に跳ね返してしまう物質が開発されているのです(The Economist 2014年11月29日)

ネイチャー誌上で報告されたスタンフォード大のラマン博士らの研究によれば、ある特殊な膜で建物全体を覆うことで、電力を使わずして太陽光を大気に放出することができるのです。97%の太陽光を放出するこの物質は、3つのハフニウムダイオキサイドの層で散りばめられた4つのシリコンダイオキサイドの層からなり、鏡のように太陽光を反射します。半導体が電気を調節するのであれば、それはさながら光を調節する半導体のようなものです。つまりエネルギーを操るように波長を操り、大気に放出するのです。最適な層の幅と振動数はコンピューターで計測します。外気との温度差は、明るければ冬でも4.9℃あるというから驚きです。

もっともこの装置の開発はまだ始まったばかりで、博士らは高価なハフニウムダイオキサイドに代えて安価なチタニウムダイオキサイドを用いることを試みています。これは屋根など建物の一部でしか使えず、冷房に完全に代替することはできませんが、発想が応用されることが期待されています。
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# 南極は巨大な観測器
こんにちは、Wadaです。

池澤夏樹の小説『スティル・ライフ』の冒頭で、主人公の友人が宇宙から到来する粒子と水との衝突で発せられるチェレンコフ光を見ようと、バーでグラスに目を凝らすシーンは非常に印象的です(実際、私はこの後の展開をほとんど覚えていません)。粒子が水や氷の中を光よりも速く通過するときチェレンコフ光を発することが知られており、例えば日本のスーパーカミオカンデという施設は水槽に5万トンの水を満たすことでこれを検出することができるといいます。現在、何と南極大陸をこの検出器に見立てようという壮大な実験が行われているのです(The Economist 2014年 12月6日)。

この粒子が本当のところどこから到来するのか、実はわかっていません。これを探求すべくANITAIII(the Antarctic Impulsive Transient Antenna III)と呼ばれる観測器が気球で吊るされ、南極を恒常的に吹く風を利用して上空35-40㎞を15日ほど飛び、150万キロ㎡の氷を見渡して、超高エネルギー中性微子が氷を通過する際に発するチェレンコフ光を検出するのです。チェレンコフ光が検出されるのは1キロ㎡当たり100年に一度ですが、この分量だと1日40回検出される計算になります。研究者が色めき立つのは、ここで検出される中性微子が世界最大の粒子加速器で作られるものよりも遥かに大きなエネルギーを持っているためです。それは既存の物理法則では説明できないのです。ひとつの可能性として考えられるのは、中性微子が氷に衝突した際に作られる、チェレンコフ光をもたらす粒子の間で、一時的にミニブラックホールが生じているのではないかというものです。このミニブラックホールは、ホーキング輻射(Hawking Radiation)と呼ばれる粒子の放射において生じると考えられており、この輻射が実在するならばブラックホールは粒子を放射するために実際は「ブラック」ではなく、ホーキング博士はノーベル賞級の発見をしたということになります。

しかもこのホーキング輻射の元になる粒子は真空から現われ、それが実在に至るためのエネルギーをブラックホールそのものから得ているということになり、ホーキング輻射は文字通り無から生じていることになります。そうだとすると、これは現代物理学に実り大きな成果をもたらします。

あのチェレンコフ光にこんなに大きな可能性があったとは、驚きです。
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