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# 『 もう一度天気待ち 監督・黒澤明とともに 』
こんにちは、Akikoです。

先日誕生日を迎えました。
堂々たるアラフォーなのに、ありがたいもので、実家の両親が忘れずいて、いろいろと送ってくれます。

その中にあったのが、



『 もう一度天気待ち 監督・黒澤明とともに 』

という、野上照代さんの本です。

1950年に『羅生門』のスクリプターとして参加、以来、黒澤映画の製作に携わった野上さんの証言は、無類の面白さです。

中でも思わず吹き出してしまったのが、黒澤監督が見た夢を映像化した8つの話からなるオムニバス映画『夢』の中の「鴉」というエピソード。寺尾聰扮する「私」は、ゴッホの絵を見ているうちに、ゴッホの絵の世界の中に入りこんでしまいます。クライマックスは、ゴッホの最後の絵である“荒れもようの空に鴉のむれ飛ぶ麦畑”を再現したシーンですが、なんと、このシーンのために、北海道のゴミ処理場を回って、250羽もの鴉を集めたというのです。しかも、画面いっぱいに鴉を飛び立たせるために、二十個の箱に分けて鴉を入れ、土地のアルバイト40人を使って、本番のために何度も特訓を重ねたそうです。その甲斐あって、当日は寺尾さんのお芝居とも合って、見事タイミングよく鴉が飛び立ったそうです。

今だったら、CGで処理されるようなシーンも、知恵と努力と、人海戦術で乗り切る、この恐るべきエピソードに、圧倒されてしまいました。

この『夢』は、1990年の封切り当時、「監督の夢を見させられる観客の気持ちにもなって」という声もあり、あまり評判は良くなかったように記憶しています。ですが、「赤富士」というエピソードの中で、原発の恐怖を描いていたことが、福島第一原子力発電所事故直後に話題となり、改めてその先見性が大きく注目されました。それ以外にも、この本の中には、盟友・三船敏郎と疎遠になった後年のエピソードや、有名な『蜘蛛巣城』の勝新太郎降板騒動にも触れられています。

出会いがあって別れがある、と言ってしまうにはあまりにも切なくて苦い、人と人との縁のむずかしさ、分かれてしまった道の取り返しのつかなさなども描かれています。

その野上さんが、あとがきでこう書いています。

今や『映画』と名のつくものは、
フィルムの消滅とともに終焉を告げた。


250羽の鴉を集める、気の遠くなる作業と、その成功を分かち合う現場のエネルギーの眩しさと…。

映画はどこへ向かうのか、わたしたちはどこへ向かうのか、そんなことを考えてしまい、本を読み終えたのでした。
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